「聴く力」と一口に言っても、コツが色々とあります。ただ単に聞いていればいい、という訳ではありません。また、テクニックだけで何とかなるものでもありません。
聴く力のテクニックを実践する前に知っておいてほしい大切なこと
人は自分の話をするとスッキリして気分が良くなりますが、それは言葉を受け止めている相手がいるからです。独り言を想像してみてください。聴いてくれる相手がいないとただ一人で声を発しているだけ。ボールの壁当てのように、跳ね返ってきた言葉は自分のもとに戻ってきます。投げたボール(言葉)が相手のグローブにしっかりとおさまってこそ、スッキリするのです。ですから、そこにいて機械的に音を聞いているだけでは「聴き上手」とは言えません。聴くということはただ漠然と耳に入れることではなく、理解することなのです。聴くことなしに相手のことを理解できないし、信頼のできる人間関係を築くことはできません。
しかし、ずっと聴いてばかりいると他人の話が頭の中にたまってしまってつらくなることがあります。そんな時はどうすれば良いのでしょうか。聴き手のプロであるカウンセラーは「聴いた話を瞬時に忘れ、また次に会う時に瞬時に思い出せる」というスキルを身につけているそうです。これができたら素晴らしいのですが、すぐに真似することはなかなか難しい。でも、意識することならできますよね。積極的に話を聴くけれど、自分の中にためこまず自分を通して外へ排出してあげるイメージをもつのが大切です。
【ポイント】
・積極的に聴いて理解する姿勢をもつ
→うわべだけの聴き手にならない
・相手の話を理解するように努めるが、決して自分の中にはためこまない
→自分はあくまでも外に流しやすくするためのフィルターであると心得る
1、相手の感情を受け入れ共感する
聴き上手にとって共感力は絶対に必要なスキルです。怒っている話をしている時に相手がニコニコしたり、嬉しい話をしている時に相手が仏頂面だったらがっかりしますよね。共感力を高めるコツは相手の感情の動きを客観的に観察することです。相手が何を感じて何を思っているのか自分なりに想像してみます。
例えば失恋したばかりの落ち込んでいる真っ最中に「いつまでもくよくよ落ち込んでないで、次にいこう!」とか「失恋することによって学ぶこともあるよね。」と言われても、頭では励ましてくれていることが理解できも、心が全然追いついていなくて、悲しい気持ちになることがあります。そういう時は、ただ静かに話を聴いて頷いてもらえるだけで、とても救われたりします。「そうだったんだね。それで落ち込んでいたんだね。つらかったね。」この一言だけで十分なんですよね。あとはひたすら話を聴いてあげるだけ。聴き上手は余計な助言をしたり、反論したり、話を省略したり、自分の勝手な解釈を加えたりしません。ありのままを受け入れ相手の感情を自分という名のフィルターを通して外に排出してあげるだけです。
余談ですが、仏像を見ると耳が大きく口が小さい像が圧倒的に多いですが、あの姿を見ると心がホッとして心が安らぎますよね。神仏は私たちの願いを聴いてくれる存在だから耳が大きいのかもしれませんね。
2、あいづちはバリエーション豊かに
あなたは何種類のあいづちパターンを持っていますか?聴き上手は相手に気持ち良く話してもらうために、たくさんのあいづちのバリエーションを持っています。「そう」というあいづちひとつとっても、「そうだね」「そうそう」「そうなんだ!」「そっか〜」「そうなの?」「そうなのか…」といくつもの使い分けができます。さらに声の高さや大きさ、声色を変えるだけで印象もガラッと変わりますよね。まずは家族や友達の話しを聴くときに、いつものあいづちに少し変化をつけてみるところからはじめましょう。あいづちのバリエーションが増えると、自然と使い分けができるようになります。
実はあいづちのしかたによって話をコントロールすることができます。例えば話を「短く終わらせたい場面」と「じっくり深く聴きたい場面」では使うあいづちが異なります。
【短く軽く聞きたい場面】
A「このごろ、夜眠れないんだ」
B「そういう人って最近多いらしいよ」
A「そうなの」
B「うん、あんまり深刻に考えなくて大丈夫だよ!運動すればいいんじゃない」
A「そうしてみようかな」
B「ところで今日なんだけどさ…」
【じっくり深く聴きたい場面】
A「このごろ、夜眠れないんだ」
B「そうなの」
A「布団に入った途端に眠気が覚めちゃう感じがして」
B「それは心配だね」
A「そのせいで日中は頭がぼーっとするの」
B「それは困るね」
A「うん、仕事中に眠いと困るからブラックコーヒーがかかせない」
B「コーヒー飲んでるんだね。それで眠気は覚める?」
……このあとも会話がつづく……
いかがでしょうか。こんなふうにあいづちひとつで会話をコントロールすることができます。相手が話すのが苦手な場合には、答えやすい質問をさりげなく投げかけて話を広げるアシストをしてあげましょう。
もうひとつ、あいづちで有名なのがおうむ返しです。話しの中でキーワードとなる言葉を探してみて、少し間ができたときにそのキーワードをくり返すのです。相手が「今日いつもの電車に乗っていたら偶然◯◯(好きな芸能人)を見かけて驚いた」という出来事を興奮気味に話していたとしましょう。「(相手の興奮に合わせてテンション高めに)そうなの!そんな【偶然】があるなんて…。それは驚くね。」といった具合に、相手の感情に注目して拾ったキーワードをくり返してあげます。そうすることで、相手は話しの内容と自分の感情が理解されたと感じられるのです。ポイントは短く要点をつかむこと。長々と同じことをくり返すのは逆効果になるので気をつけましょう。
3、聞かれたことしか話さない
聴き手に徹したい場面では、聞かれたときにだけ自分の話をします。話を聴いていると時々質問されることがありますが、よく観察すると答えなくてもいい質問が多いことに気がつくはずです。
例えば「この前こんなことがあったのよ。どう思う?」というようなものです。このような質問、実は答える必要がないことがほとんどです。相手は同意を求めているので、考えるための間を置いてから「うーん、そうだね。」と一言。相手が「ちょっとひどいと思わない?」と切り出したら「うん、ひどいと思う。」と答えます。そんなんでいいの!?と思われるかもしれませんが、これだけで勝手に会話が続きます。相手は自分の感情をどんどん話してスッキリ大満足してくれます。
また、人は自分の聴いてほしい話を相手に質問する形で投げかけることがよくあります。「最近仕事の調子はどう?」という質問を、挨拶がわりではなく唐突にされた場合には、相手は「本当にあなたの仕事の調子を聞きたいのではない」可能性が高いです。実は自分が仕事で成果をあげたことを話したかったり、あるいは仕事のグチを聴いてほしいのかもしれません。
相手を満足させたいと思うほど、何か役に立つアドバイスができないかと考えがちですが、意外と助言は求められていません。みんな本当は、どうすればいいのかはわかっているけど、それができないから苦しいのです。その苦しい気持ちを共感してほしいのです。相手の感情を吐き出させる手伝いをすることこそ、相手のためになるのです。
以上が聴く力を倍増させるための心得です。
次の記事では、聴き上手になったらどんなメリットがあるのか具体的に見ていきましょう。